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​非アルコール性脂肪肝とミトコンドリア

近年の日本では食の欧米化が進み、肥満や高脂血症、脂質異常症を中心とした生活習慣病罹患者の増加が問題となっています。これらの疾患はいわゆるメタボリックシンドロームといわれ、その背景には非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD: nonalcoholic fatty liver disease)があるとされています。NAFLDは飲酒以外の様々な原因から引き起こされる単純性脂肪肝(NAFL: nonalcoholic fatty liver)と進行して肝炎を起こす脂肪性肝炎 (NASH: nonalcoholic steatohepatitis)の総称であり、国内の患者は約1000万人と推定されます。NAFLDによる肝細胞障害メカニズムとして、酸化ストレスや小胞体ストレス、オートファジーなどが考えられていますが、特にミトコンドリア機能異常による活性酸素種(ROS)の過剰産生やROS消去系の減弱は肝細胞障害をもたらします。ミトコンドリアはATPの産生や脂質代謝を担う細胞器官で、細胞質とミトコンドリア間の物流は細胞機能に直結し、多くの膜輸送体により維持されていますが、これらの輸送体の発現や機能には未解明の点も多く残されています。私たちの研究室では、脂質代謝異常モデルマウスを用い、ミトコンドリアの内膜に発現する膜輸送体の役割解明に向けて研究に取り組んでいます。

一方、PGは脳の機能と密接関わります。世界保健機関WHOによれば、世界のうつ病患者は3億人前後、認知障患者は5000 万人程度と推計されています。近年、うつ病およびアルツハイマー病などの中枢神経系疾患の患者数は増加の一途を辿り、未曽有の高齢化社会を迎える今後はさらに増加すると予想されています。したがって、これらの精神疾患の予防や治療法を確立することは喫緊の課題と言えます。近年、中枢や循環血中のPG濃度が中枢神経系疾患患者で変動していることが分かってきました。ところが、中枢のPG濃度が調節される仕組みや、中枢神経系疾患におけるPGの役割は十分に解明されていません。私たちはこれまでに、SLCO2A1が脳内のミクログリアや血管内皮細胞に発現し、体温調節を担う視床下部におけるPGE2量の調節に関わることを発見しました(J Neurosci, 2018)。結果的に、SLCO2A1ノックアウトマウスでは、炎症性の発熱が抑制されることを報告しています。現在、SLCO2A1が脳内のPGE2の作用を調節するkey regulatorであると位置づけ、SLCO2A1以外のPG膜輸送体も含め、中枢のPG調節機構を明らかにすべく研究を展開しています(図2)。

プロスタグランジン膜輸送体 SLCO2A1に関する研究

プロスタグランジン(PG)類は細胞膜を構成するリン脂質から切り出されるアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)を介して合成される脂質メディエータです。特にPGE2は発熱、疼痛、記憶、情動、摂食行動や記憶学習などの脳の働き、末梢での炎症反応の進行、組織の修復、分娩など様々な生理現象を調節する分子です。私たちはPGの膜透過を媒介する膜輸送体SLCO2A1が肺の1型上皮細胞に強く発現し肺胞腔におけるPGE2量の調節することで、呼吸器領域におけるPGE2の分布を制御する分子であることを発見しました(図1、PLOS ONE,2015; JPET,2019)。SLCO2A1遺伝子欠損マウスでは薬剤で誘導した肺線維症が悪化することから、肺のホメオスタシスに関わると考えられています。近年では、タバコ煙抽出物がSLCO2A1の発現や活性を抑制することから(TAAP,2021)、喫煙の肺毒性の一つのメカニズムとして研究を展開しています。

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